世界遺産の地、紀伊の高野山「宿坊ビジネス」インバウンド傾注のリスクとは

20年ほど前、高野山の宿坊に泊まったことがあります。客室は質素だけど埃ひとつなく、布団を敷いただけの簡素なもので、精進料理も飾り気のないものでしたが翌朝は気持ちがびしっと晴れ、おかげさまで気分よく高野山の参拝を楽しめました。宿坊の方が交わす言葉の一つひとつに、こちらを気遣う気配が感じられ、今でもその晩のことをよく覚えています。豪華さではなく、心から迎えられているという実感をいまでも覚えています。

あの宿坊は今、どうなっているのだろうとふと考えることがあります。世界遺産登録から二十年余りを経て、高野山は外国人宿泊者を大きく伸ばし、今では宿泊者の半数以上を欧米などからの客が占めるようになりました。人気の高まりは喜ばしいことではあります。先日の産経新聞の記事を読み、その内側で起きていることを知ると、少し残念な気持ちになりました。

産経新聞の記事1
1泊20万円の宿坊…インバウンドで高級化する高野山 SNSでは「拝金主義」嘆く声も

1泊20万円の宿坊… インバウンドで高級化する高野山 SNSでは「拝金主義」嘆く声も - 産経ニュース

世界遺産に登録されている真言密教の聖地・高野山(和歌山県高野町)で、宿坊を営む複数の宗教法人が令和7年度に大阪国税局の税務調査を受け、総額1億円超の申告漏れを…

記事によると大手宿泊サイトを覗くと、露天風呂や庭園を備え、一泊20万円を超える宿坊が掲載されていたとのこと。世界遺産の地での伝統的なホスピタリティを求める外国人向けに設定された価格レベルというべきもの??

宿坊はもともと、僧侶が修行のために寝泊まりする場として始まり、平安時代以降は参詣する庶民や武士を受け入れる場へと広がってきた施設でした。
宿坊の歴史は古く、奈良時代に僧侶の居住・修行空間: 元々は寺院の中で僧侶が寝泊まりし、修行に励むための場所(僧房)として始まったと言われています。
参拝者の受け入れ: 平安時代以降、熊野詣や高野山参詣などの広がりとともに、貴族や武士、一般の参拝者も宿泊できるようになりました。江戸時代の参拝に来る庶民の旅の宿として普及しました。
国内の参拝者のための宿という性格が、いつの間にか脇に置かれてはいないでしょうか。

実際、日本人の宿泊者数はここ数年減り続けているといいます。単価が外国人向けの水準に引き上げられたことで、日本人が泊まりづらくなったのだとすれば、これは偶然の一致とは言い切れないように思います。読者の方はどう思われますか?

そこに追い打ちをかけるように明らかになったのが、複数の宗教法人による申告漏れです。住職側の私的な支出を経費に計上していたケースもあったといい、追徴税額は合計で数千万円規模に上ります。布施や賽銭には非課税という優遇がある一方、宿坊のような収益事業には課税されるという線引きを、忘れていたわけではないでしょう。人気と評判に押されるうちに、線の引き方が緩んでいったのではないかと想像します。

産経新聞の記事2 高野山宿坊の複数の宗教法人で1億円超の申告漏れ

高野山宿坊の複数の宗教法人で1億円超の申告漏れ、大阪国税局指摘 インバウンド好調背景 - 産経ニュース

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万人にとっての拠り所であり続けられるか

今のところ欧米からの客が多いといっても、中東情勢や景気の先行きは誰にも分かりません。仮に高野山大好きなフランス人をはじめとしたヨーロッパからの旅行者が遠ざかってしまったあとの市場確保は描けているのでしょうか。アジアからのリピーターが、歩いて巡る観光地を敬遠する傾向にあることを思えば、次の客層が同じ規模で埋まる保証もないように思います。高額すぎる価格帯は、ヨーロッパの方にとってはユーロ高・円安下で泊まることが可能だけど、アジアの旅行者にとっては未だ高く映るはずです。戦争の張本人であるアメリカをはじめとして世界情勢も不安定であり、円安が続くとも限りません。日本人の高野山宿泊離れは食い止めたほうが良いに決まっています。その方策は行っているのでしょうか。。

今回の申告漏れや追徴課税に見る不適切な会計処理と行き過ぎたインバウンド向け販売。商売っ気を出しすぎれば、報いが来る。それはお寺であっても例外ではない、ということなのだと思います。20年前のあの晩、質素な客室で受けた確かなもてなしは、儲けとは別の場所に軸足があったからこそ成り立っていたものではないだろうか。高野山が歩んできた道を確かめに、近いうちに再び足を踏み入れてみたいと思います。

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この記事を書いた人

小野秀一郎
(株)インバウンドにっぽん 代表
東京観光財団(TCVB)アドバイザー(5期目)

旅館・ホテル、温泉地向けインバウンド集客の専門家。
全国400軒を支援、50超の案件にアドバイス。

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